東京2020:調べてみました!

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調べてみました!
このページでは、より深くオリンピック・パラリンピックのことを知ってもらえるような記事をお届けします。読んだら大会をもっと楽しめるはず♪ どうぞお楽しみに!

「陸上競技用車いす製作現場レポート」

ものづくりにかけるエンジニアの意気込みとは、自分の仕事に対する徹底的なこだわりと誇りにあります。


今回スポットを当てるのは陸上競技用車いすです。もはや精密機械のようなこの車いすには国際レースに参戦する競技者向けに最先端技術が使われています! 前回の記事でご紹介した土田和歌子選手が競技で使用しているのは、ホンダR&D太陽株式会社と株式会社本田技研研究所の協力のもと八千代工業株式会社が製作する「極<KIWAMI>」という陸上競技用車いすです。



八千代工業株式会社のご協力を得て、トップアスリートを支えるエンジニアの仕事場を取材させていただきました。平成29年9月14日、埼玉研究所を訪ね開発本部 新商品開発ブロックリーダーの柴崎博文氏とご自身のチームの皆様に最先端技術の一端を紹介していただきました。ものづくりにかけるエンジニアの意気込みを感じてください!


・世界の頂点を目指すフラッグシップモデル「極<KIWAMI>」

「極<KIWAMI>」は国際レースに挑戦するアスリートのために開発された陸上競技用車いすのフラッグシップ(旗艦)モデルです。フラグシップモデルとは最上級のマシンのことで、「極<KIWAMI>」はカーボン素材を用いたモデルとなっています。  このモデルの中核をなす素材は炭素繊維強化プラスチック(以下カーボン)と呼ばれています。カーボンは軽くて強度が高いという特性を持っています。高価な素材で、レース専用の自動車フレームや航空機の翼などに使われています。「極<KIWAMI>」の本体はこのカーボンを用いて選手一人ひとりの体型や要望に徹底的に応えられるようにオーダーメイドで製作され、その名の通り世界の頂点を極めるモデルを目指しています。

・選手一人ひとりに合わせた専用シートフレーム

「極<KIWAMI>」のシートフレームは各選手の体型を3D測定したデータをもとに製作されます。この測定データをもとにまず「枠型」が製作されます。一見すると木枠に見えますが、陶器ベースです。この枠型に布状のカーボンを重ね貼りすることで選手一人ひとりにあわせたシートフレームがつくられます。ここが既製品とは違い、コア技術になっています。強度を高めたい場所はカーボンの層を厚くすることで対応しています。

左右それぞれで製作したフレームを組み合わせてから窯焼きします。熱を加えることによってカーボンが硬くなり、シート部分が完成します。トップ選手になればなるほどミリ単位での要求があり、それに対応した採寸が必要です。その要望を具体的なマシンレベルでチューニングしていくことが求められます。カーボンを何枚も貼り合わせることで、選手による柔らかい硬いの好みの硬さにも応えられるように設計しています。「リクエストをよく聞くようにしていますが、作り直す場合には型から
のやり直しとなります。」という言葉にその難しさが伝
わってきます。

これらの作業過程は「段取りとチームワーク」で成り立っています。お互いが次にやるべき工程を認識して進めることが求められます。使用しているカーボンは「生もの」で賞味期限があり、常温で一週間が使用の限界です。期限を過ぎると硬くなってしまうため、柔らかいうちに作業を終わらせる必要があります。このようにして作られている「極<KIWAMI>」には、徹底的に選手に合わせたという製作者の「誇り」が感じられます。






製作室を案内していただいた柴崎博文氏に、エンジニアの仕事や東京2020オリンピック・パラリンピックにかける想いなどについてお聞きしました。

①技術系に進もうと思ったのはいつごろですか。

小学校から図画工作が好きでした。高校くらいになるとオートバイをいじってみたりしました。そういう系統がやはり好きなので、自然に理系路線に進んでいました。機械をいじるだけでなく考えて設計するということが好きで、結果としてこのような開発に関する希望通りの職に就いています。

好きだからこそ会社を選ぶときもその観点でみて、自分のやりたい方向に向かっていきました。自然な流れだったのだと思います。その時に自分の思いが強くないと流されてしまい、自分の意図している道に進めないのではないでしょうか。自分の意志の強さ次第だと思います。

②パラリンピックなどでご自身のチームが製作したマシンが使われることへの感想を教えてください

世界のトップ選手に乗ってもらうだけでなく、メディアにも紹介してもらって結果も残してきました。ヤチヨが設計したモデルが世界で活躍しているんだという実感とやりがいを感じています。この仕事に携わっている全員が同じ想いを感じているのではないでしょうか。「このマシン、俺が作ったんだよ」という自負ですね。

まだまだメジャーな競技ではありませんが迫力がありますので、パラリンピックでさらに注目されると思っています。マシンにも選手の作戦を考慮に入れた設計が必要になってきます。

③トップアスリートの要求に応えていく楽しさを教えてください

選手が結果を出した時は本当に嬉しいです。お礼のメールをいただいた時などは感無量です。仕事のやりがいに一番つながるのは身内に褒められた時なのだと思います。グッとテンションがあがりますね。

④東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて想うことを教えてください

エンジニアとしてはヤチヨのマシンに乗っている選手に結果を出してほしいという一点のみです。一市民としては次の動きにつなげられるような大会であればと思います。また、パラリンピックはまだまだメジャーとは言えないので、これを機にさまざまなことへのチャレンジにつながってくれればいいなと思います。

⑤子どものころによく読んだ本はありあますか

小学校の時は漫画が好きでした。しかし、本を読むより実際に物をいじるのが好きな子どもでした。自転車を分解して組み立られなくなったりしていました(笑)。今は本を読むことがとても大切だということを知り、自分の子どもにはさまざまなジャンルの本をたくさん読むようにと伝えています。

⑥エンジニアを志望する若い世代にメッセージやアドバイスをお願いします

自分のやりたいことを見つめて諦めずに続けてほしいです。たとえ失敗してもやったことが力になると思います。やらないで諦めることをしないでください。私たちも毎日が失敗の繰り返しです。うまくいったことなど数えるほどかもしれません。





今回の取材にご協力をいただいた八千代工業株式会社 経営企画室の奥田達之氏は、「八千代工業は単なるものづくりではなく、そのものをもってどのように社会に貢献できるかを考えています。ものを購入されたお客様一人ひとりにどれだけ喜んでいただけるか、その価値をお届けしたいと思っています。大量にものを消費する時代が終わり、次を考えていく岐路に立っているのだと考えています。」と会社の理念を説明してくれました。この理念のもとに働いている社員の方々からは、明るく活気にあふれた雰囲気が伝わってきました。

お忙しいなか取材に応じていただいた柴崎博文氏とレーサー製作チームの皆様に厚くお礼を申し上げ、東京2020オリンピック・パラリンピックでの「極<KIWAMI>」の雄姿を今から楽しみにしています。




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