東京2020:調べてみました!

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調べてみました!
このページでは、より深くオリンピック・パラリンピックのことを知ってもらえるような記事をお届けします。読んだら大会をもっと楽しめるはず♪ どうぞお楽しみに!

「陸上競技の土田和歌子選手にインタビュー」

今回は2004年アテネパラリンピック5,000mのゴールドメダリスト、土田和歌子選手にインタビューさせてもらいました。

明るく優しい笑顔と、とても強い信念が印象的な土田選手。

ぜひ読んでみてください☆


土田和歌子選手 プロフィール


  • 1974年10月15日 東京都生まれ
  • 高校2年生の時に交通事故に遭い車いす生活となる
  • 1993年日本で最初のアイススレッジスピードレースを始める
  • 1998年長野パラリンピックにおいて金メダル2個、銀メダル2個を獲得
  • 1999年陸上競技に転向する
  • 2014年10月より八千代工業に所属

 <主な戦績>
  • 2004年 アテネパラリンピック 5,000mで金メダル、マラソンで銀メダル
  • 2010年 ベルリンマラソン 車いすの部優勝 ロンドンマラソン 車いすの部優勝
  • 2007年~2011年 ボストンマラソン 車いすの部5連覇
  • 2008年~2016年 東京マラソン 車いすの部9連覇
  • 2012年 ロンドンパラリンピック 日本選手団主将 マラソン5位入賞
  • 2013年 大分国際車いすマラソン 自身の持つ公認世界記録を更新
  • 2016年 リオデジャネイロパラリンピック マラソン4位入賞

2017年8月23日に合宿先の千葉県富津市でインタビューに応じていただきました。インタビュー直前まで練習をされるハードスケジュールの中、満面の笑みで出迎えてくださいました。インタビューにはトレーニングパートナーでもあるご主人も同席され、素敵な関係が伝わってきました。

①これまで参加されたパラリンピックで特に印象に残っていることを教えてください。

それぞれの大会が印象深いです。私の場合は4年に一度の目標設定で取り組んで約20年になります。その各段階で学ぶことが多くあります。その中でも金メダルを獲得したアテネの大会はすごく思い入れがあり、選手としての自信に繋がりました。

競技種目が違うとコミュニケーションがなかなか取れなかったりします。2012年のロンドンパラリンピックでは主将という役割を担いました。それまで自分のためだけに考えてきたことが、そうではなくなっていきました。もちろん、結果を残すことで意識を高めたいという思いはありましたが、まとめるというところで何ができるかを考えた大会でした。逢えるチャンスが大会しかない、結団式や解団式でしか逢えないというメンバーとどうしていけばいいのかを考えていました。私自身、自分の競技以外には詳しくないのですが、選手村のダイニングで「調子どう?」と声掛けできるようになったのはこの大会の経験が大きかったと思います。

団体競技の方たちはそういう点をあたりまえに行っているのですが、個人競技では新しい経験でした。最近では個人競技でも団体として動くことが多くなってきました。地域でクラブ的な集まりからトレーニングを共有するという時間ができてきています。各地域での取り組みが増えてきているからこその団結力が加わってきたかと思います。


また、2020年の東京開催が決まったからこそ強化の体制が整い、これからすごく速いスピードで変わっていくと思います。その分、競技のレベルも上がっていくことと思います。東京で大会が行われることそのものにも意味があります。ただ、追いついていないことがたくさんあるので、選手だけではなく皆で頑張らなければいけないと思います。

②海外に数多く行かれていると思いますが、海外経験でいいなと思ったことなど、記憶に残っていることを教えてください。

自分の国が一番あっているとは思います(笑)。他国でパフォーマンスを発揮するために、どのように生活を維持していくのかが大きな課題です。最初のころは時差であったり、食事であったり非常に苦労した面があります。基本的に食事も文化も違うので、味付け等でテンションが上がらないときには日本から持っていったものでアレンジすることができるようになりました。時差ボケも一つの形にこだわらずに、レースの時間だけパフォーマンスを発揮できればいいという思考に変わってきました。

印象深い国としてオーストラリアがあげられます。陸上競技で海外遠征に行き始めたときにシドニーでレースがありました。私たちの競技でもトレーニング環境がとても大切です。車いすはどこでも走れるわけではありません。普通の河川敷でもスピードが規制されているところもたくさんあり、スピードを出すためのトレーニングをする場所がなかなか確保できません。オーストラリアの練習環境で衝撃的だったのは、大きな公園の中に10kmほどの周回コースがあるのですが、そのコースが車、自転車・バイク、車いす、歩行者と4車線に別れ、4つのレーン分けがされていました。このこと自体にも驚きましたが、共存といいますかバリア(障害)ととらえず皆が一緒にできるというスペースを感じることができたことも大きな驚きでした。

③東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた想いをお聞かせください。

リオのパラリンピックが終わり、これまでの4年スパンでの考えから一年一年への取り組みへと少しシフトしてきました。現状、2020年の東京大会はとても魅力的だし自分が選手としてある姿をイメージするだけでもワクワクしますが、やはり目の前にあることをしっかりとやっていかなければ2020年には結びつかないと思っています。陸上で20年やらせていただき、陸上あっての自分なのですが、今はクロストレーニングとしてトライアスロンも始めました。この取り組みは自分の身体能力や基礎体力の向上のために始めたのですが、その善し悪しの結果もまだでていません。一つひとつをクリアしていくことで次の目標が見えてくるのだと思っています。時間はあるようで本当は無いので、しっかり取り組んでいきたいです。


2020年に期待するものとして、自国開催は国民の意識を変える機会になると思います。1998年の冬の長野パラリンピックを経験させてもらって、まったく歴史のないアイススレッジが一つの大会で、私が高成績を収めることで多くの人に知ってもらう機会となりました。また、右も左もわからない、アスリートとしても精神的にも成り立っていない時から多くの方に応援していただきました。メディアの方にも動いていただく機会を得たのが98年だったと思います。そこからパラリンピックが広がっていった時期でもあります。加えて、長野のときよりも障がいを持たれている方の活動範囲が広がってきていると思います。その方たちが家の中に留まらず、外に目を向けてもらえるような活動に発展していけるようにしたいと思います。また、多くの国民に、パラリンピックがどういうものなのか、障がいを持つということがどういうことなのかを知ってもらいたいと思っています。それがバリア(障害)のない社会に結びつき、大会の一つの目的になると感じています。


その反面、2020年があまりにも大きすぎて、そこで終ってしまうのではないかという不安も抱えています。まだその先にもパラリンピックはあるし、障害者もいます。終わりではなく、その先を見てもらいたいと心から思います。東京大会を機に障がいのあるなしにとらわれずに皆が住みやすい社会になってくれればと思います。

今でも外に出ると特別な目で見られることもあります。しかし海外ではそうではない国もあります。カナダでは、障がいのある方たちが自然に動けるように動線が整備されていると聞きます。また、パラリンピック発祥の地といわれるロンドンも特別です。パラリンピックの観戦率もとても高かったのですが、先日の世界選手権でもロンドンパラリンピックと同様の熱意を持って選手を迎えていました。これはその土地にレガシー(遺産)として残っているものがすごく大きいと思います。オリンピック・パラリンピックが終わった跡地が残っていない都市もある中で、それを財産として残しているのがロンドンなのです。日本もそうあって欲しいと思いますが、東京は忙しい街なのでどこまで残せるのかがポイントになると思います。

④小さい頃に好きだった本はありますか。また、感銘や励ましを受けた言葉はありますか。

お恥ずかしい話ですが、あまり本を読む子どもではありませんでした。しかし絵本がとても好きで『ぐりとぐら』をよく読みました。また、クリスマスプレゼントでもらった『青い鳥』もよく覚えています。

ディズニー映画が好きで、長野が終わって陸上に転向した頃のオフによく見ました。その中に『ムーラン』という映画がありました。映画の中で皇帝陛下がヒロインに向かって最後に発する言葉があります。それは「逆境に耐えて咲く花こそ美しい」という言葉です。それは蓮をイメージした花言葉になっています。蓮は泥水の濃度が高いほどたくさんの花を咲かせると言われていて、それを逆境ととらえた言葉となっているのです。私自身もその言葉に支えられて頑張ってきた部分もあり、今でもその言葉を胸に取り組んでいることもあります。

⑤中高生などの若い世代に向けてのメッセージをお願いします。また、スポーツを通じて伝えていきたいことを教えてください。

自分の学生時代を振り返ってみると、私は前に進みたい、前進したいという気持ちを持って歩んできたと思います。失敗してもいいから何事にもチャレンジしていきたいという前向きな気持ちに助けられて現在があると思っています。自分にはできないと思ってしまうことは簡単ですが、そうではなく、できる方法を探していくということが大事だと思います。そういう気持ちを大切に色々と取り組んでもらえたらと思います。

私はスポーツを通じて勝ち負けだけではなく、その過程や取り組み方も大切だと知りました。現状をよく知って、それを改善していくことやそれを成し遂げてパフォーマンスを発揮していくことで、自分を成長させていくことが大切だと考えています。


『今を受入れ、今を超える。』 土田和歌子/著


ご自身の著書、『今を受け入れ、今を越える。』にサインもしていただきました。

サインをいただいた本は南大泉図書館に展示しています。

とても魅力的な土田選手の今後の活躍を応援しています!!

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    今を受け入れ、今を超える。
    土田和歌子/著 徳間書店 2012.8
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